「そんなことない」と返していた頃の話

やわらかな朝の光が差し込む机の上。ノートやペン、かすみ草が置かれた静かな空間の中央に、「そんなことない」という文字が書かれている。 感覚・認識・観察

若い頃、褒められると、反射で「そんなことない」って返してた。

「その視点すごいね」って言われても、「そんなことないよ」。
「よく考えるね」って言われても、「みんな思ってることだよ」。
謙遜じゃなくて、本気でそう思ってた。
自分にとっては当たり前のことだったから、特別なことを言ったつもりが、まったくなかった。

ある時、「人の話聞かないよね」って言われた。

これ、聞いてないわけじゃない。
むしろ、聞いてる。
ただ、聞いたことを、そのまま採用しないだけ。
一回「本当に?」って、自分の中で確かめてからじゃないと、入れられない。
だから褒めも、そのまますっとは入ってこなくて、つい「そんなことない」が出る。

たぶんその人が言いたかったのも、「聞いてない」じゃなくて、
「私の言ったこと、そのまま採用しないよね」だったんだと思う。
そう言われた意図のほうも、なんとなく分かってた。
会話してる時、私は自分の側と相手の側、両方の立ち位置を、わりといつも見てるから。
自分のことだけ考えてるわけじゃ、ないんだよね。

で、ここまでは、自分の話。

最近やっと、この辺の整理がついて。

私はわりと、人の「普通はさ」とか「常識でしょ」みたいな言葉に引っかかる。
それ、誰にとっての普通?って。
一方向で決めつけられるのが、苦手で。
可哀想とか、成功とか、幸せとか、ぜんぶ「誰にとって?」が先に来る。

なのに。

褒められた時だけ、自分が同じことをしてた。
相手は本気で「すごい」と思ったのに、それを「そんなことない」って、自分の物差しで上書きしてた。

いつもは両方の立ち位置を見てるはずなのに、
褒めの時だけ、自分の側しか見てなかった。
「私には普通」。それだけで判断してた。
相手の側、つまり「この人は本気でそう感じたのかも」を、まるごとすっ飛ばすかのように。

相手にとっては、それ、思ったことだったんだよね。
私がどう思ってるかとは、関係なく。
「すごい」と感じたのは、相手の中で実際に起きた、本当のこと。
それを私が「そんなことない」で、なかったことにしてた。

人の決めつけは、あんなに嫌うのに。
自分が言われてもそこなんかスルーしてしまってた。一番、やりたくなかったことをしていたのかと。

今は、受け取るようにしている。